Share

5話 王宮のウワバミ

Author: おじむ
last update publish date: 2026-10-31 08:10:52

精霊には幾つかの階位がある。

生活魔法と呼ばれる出力の小さい魔法を受け持つ、いわゆる“精霊”。

状態変化や空間制御などの特殊魔法や、

対象を破壊する攻撃魔法を可能にする“上級精霊”。

さらに限定が解除された魔法を発動できる“特級精霊”が存在する。

“魔法”とは言っても、それは物理法則を無視しているわけではない。

極めて高速に辻褄を合わせているのだ。

その処理能力に精霊ごとの差があると言う事である。

どのクラスの精霊と契約が出来るか?

それは契約者の法力強度に左右される。

各精霊の能力に見合った親和性が必要なのだ。

基本的には先天性のもので、遺伝要因が大きい。

背の高い親から生まれた子が、また長身である確立が高いのと同じだ。

まれに突然変異もあるが、めったに起こるものではない。

現状で特級精霊に該当するのは唯一ルルナだけ。

また契約可能な親和性を有しているのもエルサーシアただ一人である。

意図的に操作された突然変異と言って差し支えない。

あくまでも現段階では。

***

帰れませんでしたわ・・・

それはもう大騒ぎになりましたの。

お祖母様は気を失われて救護室に運ばれ、お父様は私を庇う様にして抱きしめ、

お母様は「まぁ可愛い!まぁ可愛い!」と連呼しながら小躍りしていますの。

子供達は片隅に寄り集まり小声で囁き合い、大人達が盾となって囲っていますわ。

「其方そなたは精霊なのか?」

「はい。私はサーシアの契約精霊ルルナです」

両手でステッキを胸の前に持ち小首を傾げてルルナは答えました。

んまぁ~あざといですわ~

「人型の精霊・・・こんな事が・・・」

お父様はかなり戸惑っておられる様ですわ。

精霊の姿は虫や小動物型が殆どで、せいぜい猛禽類くらいですものね。

大型の哺乳類型も、ましてや人型なんて聞いたこともありませんわね。

次の行動を判断しかねておられます。

お母様は体をくねらせながら、

「まぁ!ルルナちゃんと言うのね!まぁ素敵!お名前も可愛いわ!」

徐々に近づきながら抱きしめるタイミングを覗うかがっていらっしゃいました。

このままでは埒らちが明きませんから私がどうにかしないといけませんわね。

「お、お父様・・・お城に帰りとうございますぅ」

「あぁ、そうか、そうだな。うむ、一先ず帰ろう。

母上は・・・いないか・・・司教!司教は居るか!」

「はい閣下!ここに居りまする!」

「我らは城に戻る。明日改めて参るゆえ良いな」

「はっ!畏かしこまりました」

「パトラシア、そなたは母上に付いて差し上げなさい」

我に返ったお父様はやはり颯爽さっそうとして麗しく惚れ惚れ致しますわ。

お母様は名残惜しそうにでしたが、すぐに居住まいを正しく直され

お答えになられました。

「仰せのままに」

***

気まずいですわぁ~

足早にお城に戻ったのは良いのですけれど。

お互いに無言で座ったまま・・・

元々無口な人でしたわ~

私も・・・

ルルナは私の横に座り腕に絡みつきニコニコとしているだけですわ。

黙っていないで何か話しなさいよ!

「こ、降霊の儀は私が最後で幸いでした。親睦会は恐らくお流れで御座いましょう。

皆様にはお詫びをしなければなりませんわね」

よしっ!なんとか話を切り出しましたわ!

「そうだな、詫び状を出して置こう。改めて我が家の主催で開かねばな。

そなたは心配せずとも良いのだぞ。ただ・・・その・・・驚いているのだ。

人型の精霊など前代未聞であるからな」

ちらちらとルルナを見やりながらも努めて平静になさっておいでです。

全オタクを熱狂させたシースルーのエロコスチュームですものねぇ。

並の男なら視線は釘付けの上に溶接されてますわ。

それに抗えるなんて!

はぁ・・・さすがですわお父様・・・

「そうで御座いますわね・・・その・・・ルルナは良い子ですのよ?」

「あぁ、もちろん分かっているよ。だが中央や教会が黙ってはおらぬだろう。

必ずや口を出してくる」

お父様には色々とご懸念がお有りの様です。

多分に漏れずオバルト王国も政治の中枢はどろどろしてますわね。

ダモン家は政治から距離を置いて権力闘争には関わらない様にして来ましたけれど、

人型精霊の降臨ともなれば、それを利用しようとする連中が湧いて出ますわよね。

程なくして執事が戻って参りました。

お祖母様がお目覚めになられ体調も問題なく、こちらに向かっておられるそうですわ。

「ともかく、何も案ずる事はないぞ。

そなたに仇あだなす者はこの父が打ち捨てる。

ダモンの鉾ほこはダモンに従うのだ」

「はい!お父様!」

あぁお父様・・・

今のはかなり来ましたわ・・・

ズシンと・・・お腹の下あたりに。

パンツを履き替えないとヤバイですわ~

お母様とお祖母様がお城にお戻りになられると、

案の定、怒涛どとうのおしゃべりが繰り広げられて私は隅っこに追いやられ、

お父様はいつの間にか退室なさっており、

ルルナは・・・スリープ状態ですわね。

ダモンの鉾・・・敗れたり・・・

***

この世界では精霊との契約が成立する事をもって成人としている。

本人名義での手続きや契約が可能となり権利と責任を手にする。

但し15歳までは後見人の同意を必要とする。

王宮では降霊の儀を終えた側室アナマリアの長男フリーデルを祝う懇親会こんしんかいが開かれている。

王都の重鎮じゅうちん達や高位貴族がこぞって参加し、互いの腹の内を探り合い、

王の寵愛を独占する母子に取り入ろうと唇に蜜を塗り言葉を弄している。

見え透いた称賛に、無邪気にも王は喜んでいた。

その様子に現国王の弟、ターラム大公ゴートレイトは呆れ、早くも飽あいていた。

(なんと間の抜けた顔だ)

若かりし頃の凛々しい面影も無く破顔はがんする兄王を寂し気に眺めている。

孫のような歳の娘に手を付けて強引に側室とした際には、

元老院との間に立たされ随分と苦労をさせられた。

「大公閣下、ご機嫌麗しゅう御座います」

見計らったように話しかけて来たのはシャルマン・スペンド侯爵。

王妃ユミアーラの実兄である。

「これはスペンド侯、元気そうでなによりだな」

厄介事は持ってくるなよと内心思いながら、

ゴートレイトは手を広げて歓迎の意を示した。

「勿体なきお言葉、光栄に存じます。

しかし何時もにも増して豪勢で御座いますな。

この年になると些いささか辛ろう御座います」

と口では言いながら、言葉通りでは無い事を鋭い目つきが語る。

成る程、誘って来たかと解釈したゴートレイトは少し乗ってみる事にした。

「それだけフリーデルが可愛いくて堪らぬのであろうな兄上は」

敢えて“陛下”と言わず“兄上”と呼び、声色にほんの少し嘲笑ちょうしょうを忍ばせて答える。

その様子に満足げに頷いたシャルマンはさらに話を進めた。

「ダモンの娘の件、お聞き及びで?」

ログアード領の事は、ゴートレイトの耳にも届いていた。

「人型が現れたとの事であるが、真であろうか」

俄にわかには信じられない。

「近々にコネリー枢機卿すうききょうがあちらに出向く様で御座います。

週明けには同行者の選定がなされましょう」

教会が動くのは当然だ。

むしろ遅いくらいだが、同行者で揉めているという事か。

「陛下がサンドル卿をねじ込んできたようですな」

一段と低い声でシャルマンが苦々しく告げる。

僅かな間を置いてその言葉の意味に思い至ったゴートレイトは青ざめた。

「まさかフリーデルと・・・候よ、オリアナ殿は息災かな?

妻が会いたがっておる」

言外に“この話は場所を変えて”と言う事である。

「はい閣下、我妻へのお心遣い感謝いたします。では後日改めましてご挨拶に」

「うむ」

深々と礼をして立ち去るスペンド侯爵から目を逸らし、

再び兄王を見やる。

(兄上は国を割るおつもりか・・・)

人型の精霊と契約したとなればダモンの姫の価値は計り知れないものとなる。

第二王子のフリーデルと婚姻が成れば王太子のすげ替えも戯言たわごとではなくなる。

そんな暴挙を許せば内乱に成りかねない。

それだけは阻止せねばならない。

(国の行く末を語り合い、若き夢を描いたものを・・・もはや幻か)

胸中に秘めた宝玉がひび割れる様な痛みに体が揺らいだ。

***

大きなドーム状の天井を支える12本の柱が特徴的な議事堂を有する、

政治と行政の中枢であるクローヴィン宮殿。

その一室で所在無げな面持ちで人を待つ男。

ライオネル・サンドル男爵。

王の側室アナマリアの実父であり、典型的な成り上がりの小心者である。

家計の一助にと王宮へ奉公に出した娘が王の寵愛ちょうあいを受け、

さらに王子まで生んだ。

身に余る出来事に狼狽うろたえていた所を何かとアドバイスをし、

助力して呉れたのがマルキス・ジョンソン子爵であった。

今日の待ち人である。

「やぁ待たせて済まなかったねライオネル。やっと話がついたよ。

陛下の意向だと言うのに渋る者が居てね」

利害によって結ばれた二人ではあるが年齢が近い事もあり、

10年来の付き合いで友人と呼べる関係が築かれていた。

「わ・・・私に出来るだろうか・・・自信が無いよ・・・」

北方の英雄と対面するのでさえ萎縮いしゅくしてしまうにも関わらず、

ましてや縁談を持ち掛けるなど恐れ多くて気が遠くなる。

「父上が動ければ良いのだが、陛下の傍を離れる訳にもいかないしね。

なぁに大丈夫さ、悪い話では無いのだから」

宮内省内裏取締だいりとりしまり侍従長ビクトル・ジョンソン候爵の嫡男であるマルキス。

大抵の問題は力押しで通ると考えている野心家だ。

「王命を下す訳にはいかぬのだろうか?」

他力本願な男は逃げ腰だ。

「いきなりそれでは角が立つよ。

外戚父がいせきふの君がまず話を切り出すのが良い。

父上の代理として親書も用意したし、今回は話を持ち掛けるだけさ」

ジョンソン候爵はアナマリアの後見人でもある。

その代理として赴くのであれば名目が立つ。

「君はあくまでも取次役として気軽に構えていればいいよ」

スッと軽く右手を上げて紅茶のお代わりを給仕の女中に合図する。

内裏だいりや後宮とは違い役所であるクローヴィン宮殿の女中は上流とは言え平民だ。

官僚貴族と浮名を流す事も珍しくは無い。

茶器を置く際に意味深な笑みを浮かべる彼女とも何度か肌を重ねた。

目を細め軽く頷くと彼女も片目を瞑つむり了承の意を返した。

「ところでライオネル。今夜は空いているかね?」

「え?まぁこれといって用事は無いが・・・」

急な誘いに戸惑いながらも小心者は答える。

「では付き合い給え、気晴らしをしよう」

マルキスはソファーの背に腕を回し、指を二本出して“二人だぞ”と指示しながら

閨事ねやことに思いを馳せた。

***

その翌日、侍従長執務室を訪れたマルキスは父候爵にライオネルの件を報告した。

「どうにか腹を括らせました。扱いやすいのは良いのですが、もう少し胆力が欲しいところですね」

酒を飲ませ女を抱かせて、ようやくその気にさせたのだ。

「ふんっ、所詮は食い詰め者に過ぎん男だ。使い走りが関の山であろう」

身も蓋も無く言い捨てた。

「しかし見た目だけは秀麗ですからね。彼女の美貌は父親譲りですよ」

王を篭絡ろうらくした傾国の乙女は母となった今でも少女のような可憐さを放っている。

「ダモンの娘を取り込めたら盤石となろう、利は我らにある。

奴らに先んじて動かねばならぬ」

天から降り、地から湧いたような話であるが、又と無い追い風に思える。

「教会の動きはどうなっておるのでしょうか?」

「上から下まで浮かれておるわ。

精霊王だの聖女だのと頬を染めおって、おぼこでもあるまいに気色の悪い事よ。

かの娘を教会に抱き込む事しか考えておらぬ」

精霊絡みの案件ではどうしても教会主導と成らざるを得ない。

「教会への工作を強化いたしましょう」

聖職者の中にも俗物はいるものだ。

既に何名かは取り込んでいる。

「うむ、テコ入れは必要か・・・」

「報告によるとかなりの器量良しだそうですよ、娘も精霊も。

殿下と並べば絵になるでしょうな。

なるべく早い時期に王都に招聘しょうへいして顔合わせさせましょう。

辺境伯には勲章でもちらつかせますか」

マルキスは早くも皮算用を始めていた。

コネリー枢機卿を団長とした総勢88名のログアード辺境伯領訪問団が結成され、

調整役の使者が出立するまでには、さらに10日を要した。

Continue to read this book for free
Scan code to download App

Latest chapter

  • 大聖女エルサーシアの遺言~とんでもヒロインの異世界漫遊記   5話 王宮のウワバミ

    精霊には幾つかの階位がある。 生活魔法と呼ばれる出力の小さい魔法を受け持つ、いわゆる“精霊”。 状態変化や空間制御などの特殊魔法や、 対象を破壊する攻撃魔法を可能にする“上級精霊”。 さらに限定が解除された魔法を発動できる“特級精霊”が存在する。“魔法”とは言っても、それは物理法則を無視しているわけではない。 極めて高速に辻褄を合わせているのだ。 その処理能力に精霊ごとの差があると言う事である。 どのクラスの精霊と契約が出来るか? それは契約者の法力強度に左右される。 各精霊の能力に見合った親和性が必要なのだ。基本的には先天性のもので、遺伝要因が大きい。 背の高い親から生まれた子が、また長身である確立が高いのと同じだ。 まれに突然変異もあるが、めったに起こるものではない。現状で特級精霊に該当するのは唯一ルルナだけ。 また契約可能な親和性を有しているのもエルサーシアただ一人である。 意図的に操作された突然変異と言って差し支えない。あくまでも現段階では。***帰れませんでしたわ・・・それはもう大騒ぎになりましたの。 お祖母様は気を失われて救護室に運ばれ、お父様は私を庇う様にして抱きしめ、 お母様は「まぁ可愛い!まぁ可愛い!」と連呼しながら小躍りしていますの。 子供達は片隅に寄り集まり小声で囁き合い、大人達が盾となって囲っていますわ。「其方は精霊なのか?」 「はい。私はサーシアの契約精霊ルルナです」両手でステッキを胸の前に持ち小首を傾げてルルナは答えました。 んまぁ~あざといですわ~「人型の精霊・・・こんな事が・・・」お父様はかなり戸惑っておられる様ですわ。 精霊の姿は虫や小動物型が殆どで、せいぜい猛禽類くらいですものね。 大型の哺乳類型も、ましてや人型なんて聞いたこともありませんわね。 次の行動を判断しかねておられます。 お母様は体をくねらせながら、 「まぁ!ルルナちゃんと言うのね!まぁ素敵!お名前も可愛いわ!」 徐々に近づきながら抱きしめるタイミングを覗っていらっしゃいました。このままでは埒が明きませんから私がどうにかしないといけませんわね。「お、お父様・・・お城に帰りとうございますぅ」 「あぁ、そうか、そうだな。うむ、一先ず帰ろう。 母上は・・・いないか

  • 大聖女エルサーシアの遺言~とんでもヒロインの異世界漫遊記   4話 私はルルナ

    あきらは他人との関りが薄かったせいか性欲は控え目だった。 とは言え時折、間欠泉のごとくに欲情が噴き出す事もあった。 そんな時は惜しみなく散財し、とびきり高級な会員制恋人紹介所に連絡した。 そんな過去が影響したのか、彼女は“性”に関して寛容であった。***「はぁ~楽しみねぇ~、どんな子が来てくれるのかしら?かわいい子が良いわね」 我が事のようにウキウキとお母様がはしゃいでいますわ。「そうですわね」それにつけても胸の谷間が・・・ 我が母ながら艶めかしいお方ですわ。「やはりタチアーナ様は王都で降霊なさるのでしょうか?」お母様のご実家であるチャーフ公爵家。 その嫡男の三女で、従妹のチャーミィも私と同い年ですが、 2歳からずっと王都で暮らしていますの。 貴族にも色々と違いがありますのよ。 爵位の上下は勿論の事、領地の有無も大きいですわね。領地持ちの貴族と言うのは要するに大名ですわ。 領内での徴税権や自治権を持っていますの。 大貴族なら自前の軍隊も編成していますわね。 チャーフ家も領地持ちの大貴族ですのよ! 王国の南、かつてコラゴと言う名の帝国が有った場所ですの。400年ほど前に我が国と戦争が起こりましてね、 ボコボコにされて滅びましたの。 領土は分割されて、戦の功労者に分配されましたのよ。 王妃の従兄弟で司令官だったローベルト伯爵が首都を陥落させましたの。 その功績で公爵位を叙爵されて、チャーフ公爵となりましたの。 チャーフと言うのはその首都の名ですわ。オバルト王国には3箇所に祭壇がありますの。 一つは首都エルベに、もう一つはダモンに、そして最後の一つがチャーフに。 自領に祭壇が在るなんて、そりゃ~もう特別な事ですのよ! 当然チャーフ家は代々そこで降霊の儀を執り行っていましたの。 初期のチャーフ家は軍閥でしたのよ。ところが代が下るに連れて国政に携わる様になって行きましてね。 今ではすっかり官僚貴族ですわ。 代々大蔵省税務長官を務める家系ですのよ。 領軍も小ぢんまりしたものになりましたわ。「そうでしょうねぇ。 イリアムは領地に関心が無いものねぇ。 見栄っ張りなのよあの子は。 昔からそうなの。 あれがチャーフ公爵家の跡取りだと思うと悲しくなるわ。 バロッサはお母様の言いな

  • 大聖女エルサーシアの遺言~とんでもヒロインの異世界漫遊記   3話 イ・デアル・アー

    その国で生きる人々はその世界を“イ・デアル・アー”と呼んだ。 古代の言葉で“空・大地・海”と言う意味だ。 彼らはそこが惑星であり、球体である事をまだ知らなかった。現段階で認識されている大陸は三つ。最大の面積を持つがその殆どが未踏の地 “エギ・キキル・デアル”。南北に長く湾曲した “ファ・ジンムーラ・デアル“。歪ではあるが円形に近い ”ポーラ・タエタト・デアル“。実はもう一つ大陸が有り四大陸の星なのだが、 誰もその名を知らず、何処に在るかさえも分からない。 一部の地域で”封印されし呪われた大陸”として伝承されるのみである。この世界には“魔法”がある。 精霊と契約し精霊言語を用いて発動する。かつて高橋あきらであった少女は、名をエルサーシア・ダモン・ログアードと言う。 辺境伯家の第三子であり長女となる。 北方のラーアギル山脈一帯に暮らす戦闘民族ダモン。 オバルト王国の北壁を守護する軍閥だ。 王家とは血縁でもあり良好と言える関係だが、どの派閥にも属さない自治独立の気風が強く、 中央の宮廷貴族達からは疎んじられている。さて、 数奇な巡りあわせの糸に導かれた少女は、 この世界でどのような生を紡ぐのであろうか。***なんやかんやで、もうすぐ10歳。 すっかり引き籠りですわよ! 彼女の居ない人生が、こんなに心細いとは・・・ みんなよく平気で居られますわね。 身内以外の者と話なんて出来ませんわよ。部屋から出ると心が不安で一杯になってしまいますの。 屋敷の外へは滅多に行きませんわ。 年に一度、王都へ行く時くらいですわね。 国王陛下との謁見がありますの。 新年の挨拶ですのよ。 我がダモン家は高位貴族ですの。その折りは、お母様のご実家に泊めて頂いて親族の顔合わせを致しますの。 同い年の従妹が居ますのよ。 三姉妹の末っ子。 タチアーナって言いますの。 チャーミィと呼んでいますのよ。長女はアルマーナ、二女はジュリアンヌですの。 上の二人はとても意地悪で、行くと必ず嫌な思いをさせられますわ。 まぁ、子供のする事ですから大したものではありませんけれどね。私が泣けば気が済むようですから、そうして差し上げますの。 でないとしつこ

  • 大聖女エルサーシアの遺言~とんでもヒロインの異世界漫遊記   2話 転生するって本当ですか?

    上も下も無く、右も左も区別出来ず、 前も後ろも存在しない世界に彼はただ居る。見えているのでは無い、聞こえているのでも無い、 感覚せず知覚のみ有る。 死の瞬間や時間の経過など一切不明だ。しかし彼は自分がここに居ると言う自我を認識した。***(僕は死んだ筈だよね?) 『えぇ、死亡しました』(君も居るんだね) 『えぇ居ますよ』(君は誰?神様とは違うよね) 『私が何者であるかと言う質問は初めてですね』(あぁそうだね。居るのが当たり前だったからね) 『親和性の強化が目的でしたからね。申し分のない成果を得ました』(どーゆー事?ちゃんと説明してくれないかな) 『当然そのつもりですよ。今なら理解が出来るでしょう』彼女曰く、 この世の全ては、詰まるところ“情報”であると言う。 情報の本質はネットワークであり、 絶えず流通する事で存在たらしめているそうだ。彼女はネットワークの一部であり、 僕とコンタクトする為のアプリケーションなのだとか。 彼女が言うには人間を含む生物も物質で構成されたプログラムであって、 自覚がないだけで根源的には同じものらしい。情報の収束したものがエネルギーであり、 それの凝固したものが物質であるそうだ。 つまり膨大な量の情報が詰まったパッケージが”物質”なのだとか。本来、情報を操作するのに物理法則は必要ないらしい。 いわゆる“観念”によって情報を操作する世界が根源として存在しているそうだ。 しかし三次元の世界で情報は物理法則の支配を受ける。視覚的情報は光に。 聴覚的情報は分子の振動に。 全ての情報が素粒子の運動に置き換えられて伝わるのだ。 物理法則とは、その情報パッケージを扱う為の規則だそうだ。さぁ~っぱり分かりましぇ~ん! 本来の僕は”中の下”ですよ? さらに理系は”下の下”だよぉ~ん。 でも観念?念力みたいなもんかな? だったら文系になるの? 違う? 何系?彼女の本体である観念世界は予定調和に満たされていて変化をする余地が無い。 つまり流通させるべき情報が無いのだ。 永遠に更新されない情報。 そんなネットワークに存在意義が有るのか?有る訳が無いっ!しかし物質世界を観測する事によって無尽蔵に情報の所得が可能となる。 観念世界と物質世界は共依存の関係だ。

  • 大聖女エルサーシアの遺言~とんでもヒロインの異世界漫遊記   1話 高橋あきら

    ベージュ色のカーテンが夏の日差しを和らげて程よく室内を照明している。 ホテルの一室の様だが介護ベッドを囲む医療器具や、 時折に来る看護師の足音が病室ですよと告げる。 広い個室を見回しても見舞い品の一つも無い。 この部屋の扉に彼の名札が貼られて半年が経つが、 誰一人として訪ねて来た者は居ない。脳幹に出来た悪性腫瘍だ、治療は不可能らしい。 代理人の弁護士以外は誰にも知らせなかったが、その必要も無かった。 親類縁者とは絶縁している。 父母が健在かどうかさえ知らない。 友と呼ぶ者も恋人も居ない天涯孤独のはぐれ者だ。二十代後半あたりから人付き合いを避ける様になった。 他人との関わりが煩わしい。 人嫌いと言うよりは、必要性を感じなくなったのだ。 ネットの繋がる環境さえあれば事足りる。余命宣告を受けてすぐに手続きをした。 先ずは介護施設への入居だ。 続いて財産の処分に関して法律事務所との契約。 遺言執行者として後始末をして貰う為だ。人格は破綻しているが、金に不自由はしていない。 億単位の遺産も渡す相手の無い泡銭だ。 財団にするには少な過ぎ、さりとて捨てるに目立つ額。 結局は入居施設の所在する自治体に奨学金事業として寄付する事にした。 もし両親が生きていたら、法定遺留分を除いた全額をそれに当てる。 別に善意からでも無い、担当の弁護士が勧めたからだ。 他人の人生になど興味は無い、目の前で子どもが倒れても通り過ぎるだろう。 ろくでなしの自覚は充分にある。 全ての調査と手配は死後に開始する契約とした。 もちろん契約書は公証役場に届けてある。 基本的に人を信用しない。一通りの段取りが整ったのは二月、梅の花の見頃。 見納めと思って最後の遠出をした。 南高梅の産地、和歌山県南部町の南部梅林だ。 ちょうど満開だとの事だが、桜に比べると地味なものだ。 密度が薄いのである。 だがひと枝の清楚な姿は茶人の好む侘び寂びの趣がある。 今の自分にはこの方が良いなとあきらは満足した。そして昏睡状態に陥って三日目。 今日この時、彼の人生は静かに閉じようとしていた。***(大した苦労も・・・努力もしなかったな・・・ 手ごたえも充実感も・・・無いな・・・)『そうですか?それは

  • 大聖女エルサーシアの遺言~とんでもヒロインの異世界漫遊記   プロローグ エルサーシアの娘たち

    三姉妹は母の部屋で遺品の整理をしていた。大聖女の葬儀ともなると一日や二日では終わらない。 一言お別れのご挨拶をと弔問客が連日連夜の大行列をなして訪れた。 ガラスで覆われた棺の中で、ただ目を閉じて昼寝でもしているかの様に、 その口元は微笑みを浮かべている。三日の予定が五日に、それでも途切れぬ民衆を追い返すわけにも行かず、 保存は万全にして痛む事も無し、母ならばきっとそうするだろうと、 最後の一人が振り返り、また振り返り城門を出ると十日目の夕日が落ちていた。「これは貴方が五歳の時に差し上げたものね」長女が見つけたハンカチには、如何にも子供が作りましたと言いたげな、 だからこそ可愛らしい刺繍が施されている。 母の愛したバラの花(らしきもの)が(かろうじて)咲いている。 それを見た二女は治まっていた涙が、また溢れ出して来た。「あ゛~ぞうでずばぁ~!ごでばぁ~ わ゛だぐじがぁ~!お゛が~ざばに゛ぃ~ う゛う゛う゛う゛~~~」引き出しの奥から見つかる耳飾りの片方の様に鮮やかに蘇る懐かしくも愛しい、 嬉しくてそして哀しくなる記憶。「これ!それで拭いては駄目よ!こちらを使いなさいな」 「あ゛じがど~~~」 「お姉様は一番のお母様っ子でしたものねぇ」三女は泣き虫な姉の頭をそっと撫で、しみじみと部屋を見廻す。 亡き父母の愛で満たされていた温かな空間も、 やがて訪れる沈黙を受け入れているように思えた。「そう言えば宮棚はまだ見て無かったですわね」寝台の枕元に設置された戸棚を指さす。 普段は使う事のない、でも何か特別な思い入れの有る。 そんな物を入れて置く所だ。「そうねぇ、何か有るのかしら?」長女が寝台に登り、そろりと小さな扉を開く。 中には一通の手紙が入っていた。「これは・・・」 「まさか!遺書?」 「お゛が~ざばぁ~~~」丸いテーブルの中央に手紙は置かれ、それを三姉妹が囲んでいる。「お、お姉様、開けて下さいましな」 「そ、そうね、開けるわよ!」 「お゛が~ざばぁ~~~」長女が恐る恐る手紙を開く。「これは・・・呪文ね・・・」 「呪文?」

More Chapters
Explore and read good novels for free
Free access to a vast number of good novels on GoodNovel app. Download the books you like and read anywhere & anytime.
Read books for free on the app
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status